新国立競技場問題にみる責任不在という日本病その2

こんにちは
アークブレインの田村誠邦です。

相変わらず、連日35度を超えるような
猛暑が続いていますが、お盆休暇までもう
一息、元気に夏を乗り切りたいですね。

さて今日も一昨日に続いて、新国立競技場
建設問題を取り上げてみたいと思います。

今回の新国立競技場建設をめぐる一連の
ゴタゴタについては、すでに様々な報道や
議論がされていますので、読者の皆さんも
その概要はご存知だと思います。

しかし、誰に責任があったかという責任論
から離れて、何が一番問題だったかといえ
ば、それは、「新国立競技場基本構想国際
デザイン競技募集要項」に、この混乱の
原因の大半があったと考えられます。

その理由は次の3点です。

1.ザハ案で問題視された競技場の規模
(高さやボリューム、延べ面積等)につい
ては、募集要項の記載内容が既に過大で
あったこと。

2.新国立競技場を国民が納得する形で
実現する手続きが、募集要項にはまったく
考慮されていなかったこと。

3.新国立競技場の事業としての成立条件
について、ほとんど考慮されていなかった
こと。

まず、1点目の競技場の規模に関する募集
要項の記載について検証してみましょう。

高さとボリュームについては、募集要項に
図2施設配置条件図という図面があり、
高さ70mの範囲ならば巨大なボリューム
の施設が建てられるように記載してあり
ます。

しかし、応募時のザハ案は高さ80mで、
募集要項の条件を10m超える案であった
とのことで(2014年7月14日東京新聞
朝刊)、ザハ案は要領違反だった可能性も
あります。

面積については、2012年のロンドンオリ
ンピックメインスタジアム(108,500㎡、
8万人収容、約900億円)に比べると、
新国立競技場の募集要項の29万㎡という
数字がいかに巨大かがわかります。

収容人員が同じロンドンに比べて3倍近
い面積となった最大の理由は、発注者で
あるJSCが、参加の競技団体や政治家等
からの要望を事業性の検証なしに足し合わ
せていったためと考えられます。

具体的には、競技等機能32,000㎡、競技
等関連機能15,000㎡、観覧機能111,000㎡
等は、まだ競技場本来の機能ですから、
何とか納得できるものです。

しかし、それ以外に、VIP等のための
ホスピタリティ機能25,000㎡、スポーツ
関連商業等のスポーツ振興機能21,000㎡
管理本部や会議室などの維持管理機能
35,000㎡といった数字を見ると、なんと
大盤振るまいな計画かとあきれ果てます。

ですから、当初29万㎡の延べ面積が、
2013年11月26日の第4回国立競技場将来
構想有識者会議で、約22.5万㎡に規模縮
小されたのは、もともとの数字が膨れ上
がっていたので、たいした話ではないと
思っていました。

ところが、その縮小案の中身を見ると、
また驚きが倍増しました。

競技場32,000㎡は26,180㎡、に、競技
等関連機能15,000㎡は8,410㎡に、観覧
機能111,000㎡は85,170㎡に大幅に削ら
れているかかわらず、JSC関連の諸室の
面積はそれほど削られていないのです。

たとえばVIP等のためのホスピタリティ
機能は25,000㎡は20,420㎡に、スポー
ツ関連商業等のスポーツ振興機能21,000
㎡は15,050㎡に、管理本部や会議室など
の維持管理機能35,000㎡は25,070㎡に
といった具合です。

実はコスト削減のための規模縮小案でも
JSC関連団体等の要望(利権?)は残
し、本来主役となる競技者や観客のための
施設面積を中心に規模縮小が図られたと
いうのが実態のようです。

次に、2点目の新国立競技場の実現手続き
についてですが、これについては都市計画
の変更手続きに、大きな疑問が残ります。

時系列を追ってみてみましょう。

コンペの募集要項が発表されたのが、
2012年7月20日で、この時点の計画地は
第二種高度地区であり、高さ制限は20m
だったわけです。

その後、東京都の都市計画審議会で、神宮
外苑地区地区計画64.3ha及び再開発等促
進区50.7haが決定され、県画地の建築物
の高さの最高限度が75mに緩和されたの
です。

この都市計画変更の原案の公告・縦覧が
行われたのは、2013年1月21日から
2月4日にかけてとのことで、その後
2013年5月に東京都都市計画審議会で
原案通りに承認、6月に都知事が都市計画
決定をしたわけです。

つまり、国際公約に等しいコンペの募集要
項の高さ制限等の条件が、募集要項発表時
には建築基準法・都市計画法に違反する
数字であり、その後の都市計画変更手続き
で事後的に合法化されたというわけです。

これだけとっても、今回の「新国立競技場
基本構想国際デザイン競技募集要領」が、
以下にデタラメで、法規範や常識を逸脱し
ていたかがわかります。

どこか、現内閣の安保法制の強硬姿勢と
共通しているとは思いませんか?

神宮の森という重要な立地に計画される
施設が、どのような規模であるべきかと
いうことについては、本来ならコンペ実施
前に議論されるべきことであり、都市計画
の変更もそうした議論に沿って事前に行わ
れるべきだったのではないでしょうか?

新国立競技場の実現手続きについては、
もう一点あります。

それは、新国立競技場建設計画において、
当初からコスト問題が懸念されていたにも
かかわらず、発注主体であるJSCが全く
その重要性を認識していなかったように
思えることです。

コンペ実施時の予算約1300億円の根拠が
良くわからないこともありますが、施設の
建設については素人の集まりであるJSC
が、発注者支援業務を、山下設計・山下
ピー・エム・コンサルタンツ他JVに発注
したのが2013年8月22日です。

つまり、ザハ案の当選決定時(2012年11
月15日)から9ヶ月以上たって、ようや
く発注者支援業務を外注しているのです。

プロジェクトマネジメントやコンストラク
ションマネジメントといった発注者支援業
務を専門家に頼むのであれば、本来はコン
ペの実施前の募集要項作成時点で頼むべき
であり、案が決まってからでは効果が半減
どころか数分の1程度になります。

今回の発注者支援業務受託者の働きについ
ては疑問な点は相当ありますが、何よりも
JSCが大規模施設の建設プロジェクトに
ついて全く無知だったという事実が、今回
の迷走の大きな原因といえるでしょう。

最後に、3点目の新国立競技場の事業とし
ての成立条件についてですが、これは発注
者側で最初に検証しておくべき事項で、
事業の成立条件を踏まえたコンペの募集
要領を作成するのは、世の中の常識です。

ところが、JSCの作成した募集要領は、
上記の通り、関連団体等の要望を足し合わ
せて作ったようなものであり、きちんとし
た事業収支の裏づけは、全くなかったと
思われます。

一般に事業収支計画は、当初投資額を適正
に見積もり、完成後の収入項目と支出項目
を確実な範囲で設定することによって可能
となりますが、今回の新国立競技場建設計
画においては、すべての点で甘々だったと
思われます。

建設費をはじめとする初期投資については
前回のメルマガで述べましたので、収入項
目と支出項目について検証してみましょ
う。

2015年7月7日の国立競技場将来構想有
識者会議で示された完成後の収支見込では
年間の収入が40.81億円、支出が40.43億円
で、差し引き3800万円の黒字となっていま
す。

このうち、収入の主力を占めるのは、プレ
ミアム会員事業19.33億円と、ビジネス
パートナーシップ事業12.9億円ですが、
この中身が唖然とする内容です。

プレミアム会員事業では、年540万円の
ボックス席が76室、15万円の会員シート
が3412席、10万円が739席、9万円が
1455席、6万円が1386席といった具合
で、そのバブリーさはあきれるばかりで
誰がこんな大金を出すのでしょうか?

ビジネスパートナーシップ事業も、年間
1.5億円のゴールドが3社、0.72億円の
シルバーが5社、0.48億円のパートナー
が10社だそうですが、たまにしかテレビ
放映されない競技場のパートナーシップに
どこが手を上げるのでしょうか?

支出については、将来の大規模改修費用が
収支計画に含まれていないという根本的な
欠陥があります。

第188回国会の安倍首相の答弁によると、
50年間分の修繕費が、約319億円、大規模
改修費が約656億円と試算しているようで
すが、このお金はどうやって捻出するので
しょうか?

いずれにせよ、新国立競技場建設について
は白紙撤回されたわけですから、今度こそ
国民の納得する形で、議論が進んでいくこ
とを期待したいと思います。

長文駄文、最後までお読みいただき
ありがとうございました。

田村 誠邦

■編集後記

今回の新国立競技場問題は、調べれば調べ
るほど不可解な話が続々と出てきて、
思っていたよりもはるかに長い文章に
なってしまいました。

夏の暑い時期に、暑苦しい文章を書いて
しまいました。

次回はもっと爽やかな話題を取り上げたい
と思っていますので、どうぞよろしく、
お願いいたします。

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代表取締役 田村誠邦(明治大学理工学部 特任教授)

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